
PMBOK(Project Management Body of Knowledge)は、プロジェクトマネジメントのベストプラクティスを体系化したガイドとして広く活用されています。
2021年に発行されたPMBOK第7版では、従来の「知識エリア(Knowledge Areas)」という概念が廃止され、新たに「8つのパフォーマンス領域(Performance Domains)」と「プロジェクトマネジメント原則(Principles)」が導入されました。
PMBOK第7版の変更点
1. 知識エリアからパフォーマンス領域への移行
PMBOK第6版までは、10の知識エリア(スコープ管理、スケジュール管理、コスト管理など)に基づいたプロセスベースのアプローチを採用していました。
しかし、第7版ではこの体系を廃止し、より柔軟で適応可能な「8つのパフォーマンス領域」に変更されました。
変更点 | PMBOK第6版 | PMBOK第7版 |
考え方 | プロセスベース(計画→実行→監視) | 原則ベース(適応性と価値提供重視) |
構造 | 10の知識エリア | 8つのパフォーマンス領域 |
実践方法 | 49のプロセスとITTO(インプット・ツール・アウトプット) | 柔軟なフレームワークと指針 |
適用性 | 主にウォーターフォール型プロジェクト | アジャイル、ウォーターフォール、ハイブリッドに対応 |
従来の手続きや文書管理にフォーカスしたアプローチから、「価値を創出するための適応的なマネジメント」に重点を置く形に変わりました。
2. プロジェクトマネジメント原則と8つのパフォーマンス領域の関係
PMBOK第7版では、「8つのパフォーマンス領域」を適切に活用するための指針として「12のプロジェクトマネジメント原則」が定められています。
プロジェクトマネジメント原則(12の原則)
これらの原則は、プロジェクトの成功を導くための基本概念であり、以下の12の項目で構成されています。
-
ステークホルダーへの責任を果たす
ステークホルダーの期待に応え、透明性を確保する。 -
リーダーシップを発揮する
明確な方向性を示し、チームを率いる。 -
チームを育成する
チームの成長と協力関係を促進する。 -
価値を重視する
プロジェクトが最大の価値を生み出すよう管理する。 -
システム思考を採用する
組織全体の視点でプロジェクトを設計・管理する。 -
リスクを適切に扱う
不確実性を認識し、積極的にリスクを管理する。 -
適応力を持つ
変化に柔軟に対応し、必要に応じてプロジェクトの方針を修正する。 -
品質を確保する
成果物やプロセスの品質を維持・向上させる。 -
コンプレックス(複雑性)を認識する
プロジェクトの複雑性を理解し、適切に対応する。 -
変革をリードする
プロジェクトを通じて組織の変革を推進する。 -
持続可能性を考慮する
長期的な視点でリソースの最適活用を図る。 -
プロフェッショナリズムを維持する
倫理観を持ち、高い専門性を発揮する。
これらの原則は、8つのパフォーマンス領域の運用において基盤となる考え方であり、すべてのプロジェクトで適用されるべきものとされています。
一例として、「ステークホルダーへの責任を果たす」とはどういうものでしょうか。
ステークホルダーへの責任を果たす重要性
プロジェクトを成功させるためには、プロジェクトマネージャーがステークホルダーへの責任を果たし、適切に関与を促すことが不可欠です。ステークホルダーとは、プロジェクトの成果に影響を受ける、または影響を与える可能性のあるすべての関係者を指します。彼らの期待を理解し、適切に対応することが、プロジェクトの円滑な進行に大きく寄与します。
失敗事例
例えば、ある製造業の企業が新しい生産管理システムを導入するプロジェクトを立ち上げたとします。
このプロジェクトには、経営層、工場の現場スタッフ、IT部門、さらには外部のシステムベンダーといった多様なステークホルダーが関わります。
それぞれのステークホルダーは異なる関心を持っており、経営層はROI(投資対効果)を重視し、現場スタッフは使いやすさや業務の効率化を求め、IT部門は技術的な適合性を気にします。
このような状況で、ステークホルダーの期待を正しく把握せずにプロジェクトを進めた場合、例えば経営層の指示だけを優先して現場スタッフのニーズを考慮しないと、実際の運用時にシステムが受け入れられず、現場の反発を招く可能性があります。
その結果、システムの導入が遅れたり、追加の調整コストが発生したりすることになり、プロジェクト全体の成功に悪影響を及ぼします。
成功事例
一方で、ステークホルダーへの責任を果たし、彼らの期待を適切に管理することで、こうした問題を未然に防ぐことができます。たとえば、定期的なミーティングを開催し、各ステークホルダーが意見を表明できる場を設けることで、事前にリスクを把握し、調整を行うことが可能になります。また、意思決定プロセスにステークホルダーを積極的に関与させることで、彼らの納得感を高め、プロジェクトのスムーズな実行につなげることができます。
重要なのは、すべてのステークホルダーの意見を無条件で受け入れるのではなく、プロジェクトの目的や全体戦略との整合性を考慮しながら、適切に調整することです。
ステークホルダーの協力を得ることは、プロジェクトのリスクを低減し、意思決定の質を向上させる重要な要素です。
そのためにも、定期的な報告やフィードバックの場を設け、関係性を維持しながらプロジェクトを進めることが求められます。
このように、ステークホルダーへの責任を果たすことは、単にプロジェクトの進捗を報告すること以上の意味を持ちます。
関係者の期待を正しく理解し、適切に関与を促しながらプロジェクトを進めることで、組織全体としての成果を最大化することができるのです。
3. 8つのパフォーマンス領域(Performance Domains)
「8つのパフォーマンス領域」は、プロジェクトの成果を最大化するための主要な活動領域です。
パフォーマンス領域 | 概要 |
1. ステークホルダー | ステークホルダーの期待を理解し、関与度を高める。 |
2. チーム | チームの形成と育成、コラボレーションの促進。 |
3. 開発アプローチとライフサイクル | アジャイルやウォーターフォールなど、適切な開発手法を選択する。 |
4. 計画 | プロジェクトの計画を策定し、柔軟に管理する。 |
5. プロジェクトワーク | 作業を効率的に進め、リスクを管理する。 |
6. デリバリー | 成果物の提供と、顧客価値の最大化。 |
7. 測定 | プロジェクトのパフォーマンスを測定し、改善を促す。 |
8. 不確実性の対応 | 変化やリスクに対処し、適応力を高める。 |
各パフォーマンス領域は、プロジェクトマネジメント原則に基づいて適切に運用されることが求められます。
例えば、「リスクを適切に扱う(原則6)」は、「不確実性の対応(パフォーマンス領域8)」と密接に関係しています。
まとめ
PMBOK第7版のポイント
- 「知識エリア」から「8つのパフォーマンス領域」へと移行し、より柔軟なフレームワークに。
- 「12のプロジェクトマネジメント原則」が新たに定義され、プロジェクトの運営指針となる。
- 「8つのパフォーマンス領域」は、プロジェクトの価値創出と適応力向上を目的としており、従来のプロセス管理を超えた概念。
PMBOK第7版は、従来の手順重視のアプローチから「価値提供」「適応性」「プロジェクトの成功」にフォーカスするモデル へと進化しました。