デジタル技術の進化は、ビジネスの世界を根本から変革しています。
この変化の中で、中小企業にとっても「IT化」と「デジタルトランスフォーメーション(DX)」への対応が必須となっています。
しかし、これら二つの概念はしばしば混同されがちです。
ここでは、IT化とDXの根本的な違いを明らかにし、中小企業がDXに成功するための重要なポイントを詳しく解説します。
ビジネスにおける技術活用の進化
「IT」とは「Information Technology」の略であり、「情報技術」を指します。
これには、コンピューターとネットワークを活用した技術全般が含まれます。
「IT化」とは、この情報技術を活用して業務プロセスを効率化することを意味します。
具体的には、従来手作業などで行われていた業務をIT技術を用いて自動化・迅速化することです。
一方で、「DX」とは「Digital Transformation」の略であり、「デジタル変革」を意味します。
ここでいう「変革」は、DXの目的を達成するための手段に過ぎません。
「デジタル技術を用いて製品・サービス・ビジネスモデルを変革し、新しい価値を生み出すこと」がDXの核心であり、これにより高い競争優位性を確立することが真の目的です。
DXに必要な3つのデジタル化
このDXを進める際には、以下の3つのステップがあります。
- デジタイゼーション:Digitization(情報のデジタル化)
これまで紙で行ってきた業務をデジタル化するなど、アナログ・物理データのデジタル化を行います。
具体的には、業務の作業レベル(書類をPDFにする、注文情報をデータ入力する、など)の部分的あるいは局所的なITシステムの導入を指し、主な目的は業務効率化の実現です。
- デジタライゼーション:Digitalization(業務のデジタル化)
業務の作業レベルの一部を対象とするデジタイゼーションに対し、業務プロセス全体をデジタル化します。
具体的には、限られた特定の業務(受注業務、在庫管理業務、など)を全体的に見直し、それを実現するためのITシステムを導入することで新しい価値やビジネスモデルを創出するものを意味します。
ただし、この段階では企業全体のデジタル化はまだ達成されていません。
- デジタルトランスフォーメーション:Digital Transformation(ビジネスモデルや組織のデジタル変革)
個別の業務プロセスを超え、企業全体をデジタル化し、それによって、製品やサービス、ビジネスモデルはもちろん、組織全体をデジタルの力で変革し、高い競争優位性を確立します。ビジネスモデルや組織そのものを変革していき、新しい価値を生み出すことを意味します。
- ビジネスモデルの変革
既存のビジネスモデルを見直し、新しい価値提供の方法を模索することにあります。
デジタル技術によって、収益源や価値提供の構造を根本から再定義します。
(例)
サブスクリプションモデルへの移行
データを活用したサービス提供
プラットフォームビジネスの展開 など
- 業務プロセスの最適化
業務プロセスをデジタル技術で効率化・自動化するだけでなく、プロセス自体を再設計し、より効果的な形へ進化させることを目指します。
効率化だけでなく、データや技術を基盤とした新しいプロセスを設計します。
(例)
AIを活用した需要予測
IoTでリアルタイムの在庫管理
自動化による人的エラーの削減 など
- 顧客体験の向上
顧客との接点をデジタルで強化し、よりパーソナライズされたサービスや利便性の高い体験を提供することを目指します。
顧客価値を最優先に考え、テクノロジーを活用してより深いエンゲージメントを実現します。
(例)
オンラインとオフラインを統合したオムニチャネル戦略
AIによる顧客対応のパーソナライズ化 など
DX時代のIT導入プロセスの3つのケース
DXを推進するには、
- デジタイゼーション(ペーパーレス化)
- デジタライゼーション(IT化)
- デジタルトランスフォーメーション(DX)
の3ステップが考えられますが、それぞれの進め方は大きく異なります。
DXの遅れがもたらすリスクと中小企業の人材不足解消への転換点
DXが進展していない企業は、データ処理の遅れからデジタル競争において立ち遅れるだけでなく、システムの老朽化により業務基盤の維持が難しくなり、サイバー攻撃や事故・災害によるシステムトラブル及びデータ流出のリスクが増大すると予測されます。中小企業のDX進捗の遅れは、多くの調査で指摘されています。
2022年5月、中小機構が発表した「中小企業のDX推進に関する調査」では、人材不足が大きな障壁であることが浮き彫りになりました。しかし、DXを通じてこの人材不足を解消することも、DXの目的の一つです。
例えば、従業員が15名程度の計測・制御機器を製造・販売する企業では、現場での計器確認作業員の不足により受注が減少していました。そこで、計測機器に無線デバイスを搭載し、計測結果をクラウドサーバに送信するIoT技術を導入しました。
この施策により、現場作業員の必要性を減らすことに成功し、さらにこのノウハウを医療機器事業にも応用し、ビジネスモデルの変革を達成しました。
国内のDX成功率が10%程度とされる中、中小機構の調査では、DXを導入した中小企業の実に80%以上が「成果が出ている」と回答しています。「成果が出ている」(32.9%)と「ある程度成果が出ている」(49.4%)を合わせると、多数の中小企業がDXによる課題解決の成果を実感しています。
DX失敗を避け、成功へ導く鍵:目的明確化と推進体制の構築
DXの取り組みが失敗に終わるケースには、共通する原因があります。
その多くは、以下のようにものに起因しています。
- 流行に乗るためだけの盲目的な導入
- 情報システム部門に全責任を委ねる姿勢
- ITベンダーによるシステムやツールの導入プロセスへの全面依存
- 主要利用部署からの不満や抵抗
これらの失敗例は、DXの真髄に対する根本的な理解不足と十分な準備がなされていないことによるものです。
DXの成功を実現するには、明確な目的設定とそれを支える強固な推進体制の構築が不可欠です。
DXを単なる技術導入と見なすのではなく、ビジネスモデルの変革や新たな顧客価値の創出といった目的に対して、どのように貢献するかを明確にする必要があります。
さらに、この目的達成に向けて組織全体での協力体制を築き、各ステークホルダーの理解と協力を得ることが重要です。
近年、コロナ禍、物価高騰、戦争といった不安定な世界情勢や、カーボンニュートラル、SDGsといったグローバルな課題に直面している中で、企業は常に変化に対応し、競争力を維持していく必要があります。
このような変動が激しい時代において、DXは企業にとって欠かせない戦略的要素です。
正しく理解し、効果的に推進することで、企業は持続可能な成長と競争優位性の獲得を目指すことができます。
DX成功の秘訣:ビジネスモデル変革と組織文化の再構築
DXを実施する際、技術の単純な導入を超え、ビジネスモデルおよび業務プロセスの根本からの見直しと変革が求められます。これは、新しいデジタル技術を最大限に活用し、業界内での競争優位性を確立するために不可欠です。
成功への道のりには、組織全体の意識改革が必要です。
これを達成するためには、トップからの強力なリーダーシップと、明確かつ具体的なビジョンの提示が不可欠となります。トップダウンのアプローチによって、デジタル変革の波に積極的に乗り出し、持続可能な成長を目指す文化を築くことが可能です。
DXに関する知識が不足している場合や、初めの一歩を踏み出すことに躊躇している場合は、外部の専門家に相談することが賢明な選択となります。最適なパートナーを見つけるには、複数の専門家との相談を通じて、自社の特定の課題に対する理解を深めることが重要です。
組織全体の意識改革には、企業のトップ自身がDXの重要性を深く理解し、そのビジョンを明確に持ち、経営層や従業員に対してその必要性を伝え、意識改革を促進することが欠かせません。
組織文化の再構築は、全員がデジタル変革の価値を理解し、支持することから始まります。
DXの成功は単に技術を導入することではなく、組織全体の変革と進化を意味します。