
ITを使った新サービスが急速に登場
デジタル・ビジネスとは、ITを活用して収益の機会を生み出すビジネスモデルのことである。
小売りでは・・・
ネットを見てから店舗に来店する顧客に向けた利便性のあるサービスや、電子商取引(EC)と店頭の在庫管理を一元化して機会損失を減らす動きなど。
製造業では・・・
生産工程の制御や販売後の製品メンテナンスをインターネットを介しておこなう新サービスなど。
金融機関では・・・
スマホカード決済、海外送金、クラウドファンディングなど、最新のITを駆使した新たな金融サービスなど。
といった具合に、ITを使った新サービスが急速に登場している。大手調査会社の調査では、企業リーダーの8割以上の企業は5年以内にデジタル・ビジネスに転身する意向があるという。
ITを使うことで、生活をどう変えるか、顧客の知覚的、心理的な満足をいかに最大化できるのか。人・モノ・ビジネスがインターネットを介して直接つながり、それにより収益の機会を生み出すビジネスモデルをいかに創り出すかで勝敗が決まる。いわゆるデジタル・ビジネスの潮流、デジタル・ビジネス企業の出現である。
上記のような取り組みをおこなう企業にとって、ビジネスのIT化、デジタル化は、戦略領域そのものであり、その背景には、デジタル・ビジネスが可能となった技術が揃ってきたことがある。
デジタル・ビジネスを支える技術/考え方
ここでは、IoT、オムニチャネル、AI・人工知能、全く新たなビジネスモデルについて記述する。
◆Iot(Internet of Things)
IoTとは、コンピュータなどの情報・通信機器だけでなく、世の中に存在する様々な物体(モノ)に通信機能を持たせ、インターネットに接続したり相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うこと。
(例)
少し前から、パソコン、スマホ、タブレットで扱うデータはインターネットを介して同期(共有)できるようになった。今では、街中を走るマイカーやトラック、自動販売機や業務用洗濯機だってインターネットに直接繋がっている。
(例)
業務用の洗濯機・乾燥機はインターネットに直接繋がり、コインランドリー事業者は洗濯機の稼働実績をリアルタイムに分析して営業に生かしている。
(例)
町工場の工作機械はインターネットに直接繋がり、工作機械メーカーは工作機械の稼働実績を分析して補修部品の供給に生かしている。
実は、IoTという言葉が話題になるずっと前から、「モノのインターネット」と同様の考え方を取り入れていた企業はあるのだ。例えば、生産設備にセンサーを付けて、温度などのデータを取得して収集し、設備の異状を早期に発見するなどの成果を上げている。これまでは現場のカイゼンにIoTを使い、コスト削減や生産性の向上に役立ててきた。
このノウハウを使って、外販するサービスを創出すれば、新たなビジネスモデルを増やせるというわけだ。
◆オムニチャネル
オムニチャネルとは、店舗やイベント、ネットやモバイルなどのチャネルを問わず、あらゆる場所で顧客と接点をもとうとする考え方やその戦略のこと。
(例)
東急百貨店、洋服の青山、ロクシタン、ANA、ピザーラ、資生堂、イトーヨーカドーなど(切りがない・・・)は、自社ウェブサイト、ネットショップ、公式スマホアプリ、LINE、Twitter、Facebookを使って、各媒体での顧客のアクションや購買履歴を分析して顧客へアプローチしている。
消費者側から見えるのは、メッセージを受け取ったり、クーポンや引換券などをスマホで受け取ったり、郵送されてきたりすることだ。企業側では、各チャネルから収集した情報を一元化して分析して顧客へのアプローチに活かしているのだ。
(例)
個人商店でも、TwitterやFacebookなどを使っていると思う。
ただし、決定的に違うのは顧客との接点を増やすことに留まり、個々の顧客の状況を掴んだうえで顧客へアプローチするに至ってないことがある。
◆人工知能(Artificial Intelligence)
人工知能とは、人間の使う自然言語を理解したり、論理的な推論を行ったり、経験から学習したりするコンピュータプログラムなどのこと。
(例)
銀行や保険会社のコールセンターでの実用化が進んでいる。AIが音声認識を行って会話の内容を文字ベースで記録するほか、顧客の声をリアルタイムで解析し、顧客の課題を突き止め、その回答の手助けとなる情報を、オペーレーターの手元に表示する。
(例)
ネット上のレシピを収集して、食材の組み合わせ方、料理スタイル、料理の盛りつけ方等に関する情報をパターン学習して、料理のテーマ、調理法、その時の気分などのキーワードから連想される食材の組み合わせと調理方法を提案する。
◆全く新たなビジネスモデル
従来の先入観や前提にとらわれずにイノベーションを実現した例として、配車サービスのUberや宿泊サービスのAirbnbといったグローバル市場(当然、日本にも上陸している)を構築した企業がある。
デジタル・ビジネスによる破壊が起き、既存の交通機関やホテルのビジネスを脅かしている。
実際、このような動きの前には非常に複雑な規制や市場原理が立ちはだかるが、顧客ニーズに抗しきれずに受け入れる素地へと繋がっている。
デジタル・ビジネスの優劣はソフトウェアの出来具合が鍵
デジタル・ビジネスにおいては、そのビジネスモデルの構成要素のうちソフトウェアの比重が、これまでとは次元が異なる。なぜなら、顧客に対する付加価値はソフトウェアを通じて提供され、サービスやビジネスモデルを“定義”するのがソフトウエアであるからだ。
さらに、市場、顧客、IT技術などの変化への対応スピードは従来よりも求められ、正確に動くソフトウェアをすばやく開発しなければならない。
デジタル・ビジネスは、そうしたソフトウエアを創り出す能力で優劣が決まる。
システム開発の主体が変わる!今と未来
デジタル・ビジネスに必要なソフトウェアを創り出すには、IT技術者と事業メンバーが融合した新チームが必要となる。
それは、なぜか?
デジタル・ビジネスでは、儲けるためのサービスをソフトウエアでつくる(定義する)ことが必要だ。だから、商売に興味が無いか疎い「技術者」だけでは当然むずかしい。
自分たちの顧客をよく知り、どうすれば顧客に喜んでもらえて、お金を払ってくれるかを日々考えている事業サイドの「商売人」も必要だ。
自分たちの客をよく知り、生活をどう変えるか、どうすれば客が喜んでくれるかを日々考えている事業サイドと、儲けるためのソフトウエアをつくる技術サイドが融合したチームが必要となる。
従来のシステム開発チームでは、デジタルビジネスは生まれにくい!
従来のシステム開発の対象は、業務効率や生産効率などを求めた内部の業務プロセスであった。それを裏付けるように、企業におけるIT予算配分は、内部の業務プロセスのためにその70%を割き、変革のためのIT予算は30%に過ぎなかった。だから、今後、デジタル・ビジネスの展開にともない、この予算配分は自ずと変わっていくといわれている。
では、これまでのシステム開発はどのような体制でおこなわれいたのか。
大企業では・・・
社内にIT部門が存在する。このIT部門の目的は、ある特定業務(経営課題として定められることが多い)の業務効率や生産効率を向上するために必要な業務プロセスの見直しとその運用に必要なIT資源(ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク、設備、人材、など)を調達することである。
IT資源を調達するために、SIerと呼ばれる事業者に丸投げすることもある。SIerとは、個別企業のために情報システムを開発・構築し、保守運用のサービスを提供する事業者をいう。
中小企業では・・・
例えば、従業員300名の企業規模であれば1名~3名の専任(含むパートやアルバイト)を置いて、情報システムの開発・構築を外部に委託している。専任者の人数の違いはあるものの大企業も中小企業も同じような構造になっていることが多い。
小規模事業者では・・・・
専任者が無く、社長がITに詳しかったり、パソコンに詳しい従業員が必要に迫られて対応している。
デジタル・ビジネスを創出する体制をつくる
大手企業では、IT部門の中からデジタル・ビジネスに必要な技術に精通しているメンバーを選抜して事業サイドのメンバーと独自の新チームをつくることも可能だ。
マンパワーが不足がちな中小企業では、現有のITメンバーからの選抜は難しい場合が多い。ならば、デジタル・ビジネスに必要な技術に詳しいパートナーを見つけて、事業サイドのメンバーとパートナーで新チームをつくることだろう。もちろん、この方法は大手企業であっても当てはまる。
小規模事業者では、まずは、クラウドの顧客管理、名刺管理などを利用するところから始めてみる。あれもこれもする必要はない。一番必要と思われるところから、まずひとつから始めて、それと関連のあるサービスを増やしていけば良い。そして、ライバル企業と差異化し打ち勝つために、いずれかの段階で独自のサービスを独自のソフトウエアでつくろうとするときが来る。このときこそ、独自の新チームをつくるときである。
デジタル・ビジネスでは、市場、顧客、IT技術などのビジネスを取り巻く環境に合わせて、ソフトウェアを柔軟に変えていかなければ商売にならない。だから、ソフトウェアをすばやく変更可能な、かつ、永続的な開発体制が必要になる。
理屈は簡単だ。デジタル・ビジネスのためのシステムは、従来の業務系システムと違って、開発段階と保守運用の区別がほとんど無意味で、素早く永続的に開発し続けなければならない。ビジネスの状況次第でソフトウェアを柔軟に変えていかなければ商売にならないから、これは当たり前のことである。
つまり、デジタル・ビジネスのためのソフトウェアは、“永続開発”が必須条件だ。
実際には、小さなサービス機能ごとに、要件整理→開発→テスト利用→本利用→サービス評価→改善といった作業を繰り返しおこなう。
デジタル・ビジネスを担う「チーム」をつくる方法は、各社各様となると思われる。
しかし、共通していえることは、デジタル・ビジネス戦略を立案し、その戦略を実現する新チームの構築が始まれば、それぞれの企業ごとに最適解が見つかるだろう。もちろん、そのためには経営トップの何があろうと達成するという意気込みも必須である。
デジタル・ビジネスへの移行は、これまでの経営課題とは次元が異なる。チャレンジを伴う変革である。
デジタル・ビジネスへの取り組みの状況
デジタル・ビジネスへの取り組みは着実に始まっている。
日本情報システム・ユーザー協会の調査によると、
売上高1兆円以上の企業では
実施済が48.0%、検討中が42.3%と、合計で9割を超える。
一方、売上高100億円未満の企業においては、
実施済が6.8%、検討中が15.9%に留まっている。
大企業に比べて取り組みは進んでおらず、2割弱は関心ないという状況である。
業種別では、金融が最も進んでいる。
金融に次いで取り組みが進んでいるのが、機械器具製造である。
実施済または検討中の企業は、48.3%に達する。ただし、成果ありとしている企業は3.4%と全業種の中で最下位である。
製造業では、特にIoTに期待を寄せていて、具体的には
- 製造機器の情報収集と分析
- ウェアラブルによる保守作業の高度化と効率化
- 工場内での人の動きの分析と効率化
などの取り組みが始まっている。
製造現場の生産性向上や、機器の監視/故障検知といった目的でIoTの活用が進んでいる。
生産効率向上、生産量アップ、歩留まり改善、品質不良予防など、適用目的は多岐にわたる。
デジタル・ビジネスに取り組む目的
デジタル・ビジネスに取り組む目的を業種別に見ると、
金融は他の業種に比べ、
- ビジネスの創出
- 現行ビジネスの売上拡大
- 顧客基盤の強化
といった攻めの目的で取り組みを進めていることがわかる。
そして、「経営戦略を実現するためにIT戦略は無くてはならない」としている企業ほど、
- 新規ビジネスの創出
- 現行ビジネスの売上の拡大
- 顧客基盤の強化
といった攻めの目的でビジネスのデジタル化に取り組んでいる割合が高い。
デジタル・ビジネスの取り組みとIT戦略の策定状況に関係性が見て取れる。
経営戦略を踏まえたIT戦略の立案のなかから、その実行項目のひとつとしてデジタル・ビジネスに取り組んでいることが見て取れる。
IT部門と事業部門の連携が成功のカギ
では、デジタル・ビジネスの取り組みは、社内のどの部門が中心になって進めているのだろうか。
全体で見ると、「IT部門と事業部門の共同チーム中心(組織化はされていない)」が53.1%と主流である。
また、大企業ほどIT部門と事業部門が共同でデジタル化の企画を推進していることも見て取れる。
一方で、売上高100億円未満の企業では「IT部門中心」と答えた企業の割合が38%と、売上高規模の大きな企業と比べて顕著に高い。
IT部門に求められている役割は
- 新技術を調査し、導入できるようにする
- 素早く導入・変更できるITインフラを用意する
である。そのほかには、
- 既存システムとの連携をしやすくする
- データを分析・活用しやすい仕組みを作る
- セキュリティを強化する
である。
IT部門に重視されるのは主に情報システムに関する役割であり、ビジネス面での役割はそれほど重視されていないようにも見える。
しかし、成果が出ている企業がIT部門に求めている役割としては
- 新技術を調査し、導入できるようにする
- 素早く導入・変更できるITインフラを用意する
- ビジネスを創出する
を重視している。
成功の鍵は、「事業部門がプロジェクトを率先して、IT部門はビジネス創出にも貢献する」といえるだろう。
成功企業は経営や事業部門が積極的に予算化
既に成果を上げている企業は、予算の確保方法や、協業先の開拓方法にも特徴が見られる。
デジタル化の予算は、経営、事業部門の意向が4割を超えている。
- 経営からの要請によりIT部門で新規予算を確保
- 事業部門からの要請によりIT部門で新規予算を確保
デジタル化が進んでいる企業ほど、経営や事業部門からの要請により新規予算を確保している。
デジタル・ビジネスに踏み込めるかどうか、また成果を出せるかどうかは、経営や事業部門の意向の強さによるところが大きいと考えられる。
MITメディアラボ
※2017年8月12日追記
世界最高峰の研究所のトップに、テレビ東京のWBSが独占インタビューし、2017年8月11日に放映された。
マサチューセッツ州にあるマサチューセッツ工科大学の中にあるMITメディアラボは世界最高峰の研究機関だ。
MITメディアラボには企業から来た研究者など約700人が所属して、最新の研究を行っている。
MITメディアラボのスポンサー企業は世界で80社以上。
提供される資金は年間約70億円。
そこで所長を務めているのが伊藤穰一所長だ。
◆異なる分野の専門家が共同研究する場!
MITメディアラボでは通常では交わらない専門家が
一緒に共同研究する。
例えば、東芝メモリから来た坂東洋介さんは、メモリという記録媒体について研究しているが、脳科学者と一緒に研究している。
生物学 × エレクトロニクス
デザイナー × 科学者
◆なぜ「異分野の専門家」が共同研究をするのか?
専門家は、大体は自分の分野にフォーカスする。
そこの中で答えが出るようなイノベーションは起きるけれども
つながるようなものは出てこない。
だから、分野にはまらないことを常にやっている。
「カギを無くした時、電灯の下を探す」
というが、要は明るいところしか探さない。
でもほとんどの場所は暗い。その暗闇の中に
実はカギはいっぱい落ちている。
MITメディアラボは、その暗闇のところを探す。
すると、結構簡単に役に立つものが見つかる。
歴史を振り返れば、光ファイバーができたときに
そんなに大容量の通信を「何に使うのか?」といわれて
一生懸命に使い道を探していたのと同じ。
同じ分野でずっと研究していても、
他の分野とつながるようなものは出てこない。
◆「技術の使い道」を予測するには!?
伊藤穰一所長は著書「9プリンシプルズ」の中で
「ある技術に一番近くにいる人が、その最終的な用途をいちばん予測できないらしい」と記している。
作っている本人も使い道を
理解できない話もたくさんある。
昔なら自分の分野だけ集中すれば良かったが
今は世の中がどうなっているのか
環境問題とか、自分の専門分野以外も
少し理解していく必要がある。
違う意見を持つ人とか
会ったことがないタイプの人と会って
なるべくいろんな人と話すのはとても楽しい。
と伊藤穰一所長は述べている。